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『オーバークック』の裏話。協力ゲームのデザインについて

『オーバークック』の裏話。協力ゲームのデザインについて

577 View2022-04-15
11月11日と言えば、中国ではショッピングの日としてすっかり定着している。しかし、当初この日が「独身の日」と呼ばれていたのを覚えているだろうか。では今回は「独身の日」にふさわしいゲームを紹介しよう。それが『オーバークック』だ。一体どれだけのカップルが、このゲームが原因で別れてしまったんだろう。 
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 まずは協力型ゲームの概念について話そう。本文で述べるのは本当の意味での協力ゲームで、一般的なマルチプレイヤーゲームではない。ここでいう協力ゲームの三大要素。 1.プレイヤー同士が協力しCPUと対決。プレイヤー同士が対戦するのではない。2.個人的な目標ではなく、団体の目標を達成させる。3.仲間の協力に頼って目標を達成する、従来のシングルプレイではクリアできないゲームだ。 こんな要素な上、二人いないと遊べないゲームは「スーパーニッチ」なジャンルだと思うだろうが、インフルエンサーのような存在ともいえるゲームが現れ、このジャンルを世に広めたのだった。それが『オーバークック』である。 
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 やり方はいたってシンプル、画面のお客様が注文する料理を作って出せばクリアだ。そんな人畜無害なミニゲームのようなソフトが、なぜカップルを別れさせ、親友同士を絶交させたのだろうか?では『オーバークック』の裏側を紐解いてみよう 協力ゲームは大抵2種類に分けることができる。1つは『魂斗羅(コントラ)』のような能力が全く同じキャクターを操作するタイプだ。青マッチョと赤マッチョは同じ動きで、どっちを操作してもゲーム体験は同じだ。もう1種類はキャラの能力が違うゲームで、『バイオハザード リベレーションズ2』のようにクレアを選べば銃が打てるが、モイラを選んだ場合、使えるのは懐中電灯ぐらいだ。 
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 だがいずれにせよこの2タイプのゲームには共通の問題がある。それは固定のプレイ方法によるマンネリ化だ。操作に慣れればプレイヤー同士の会話が減る。 では『オーバークック』はどうやってプレイヤー同士の「コミュニケーション」を促進しているのだろうか?答えはステージの中にある 「悪意満載」のステージ設定 『オーバークック』ではプレイヤーが操るキャラの能力は同じである。理論上誰でも調理から料理を出すまでの操作が可能だ。なので、「1人が前菜を準備、もう一人がメインデッシュを調理」と言った戦略を立てることだってできる。ところが実際プレイすると、てんやわんやになり、プレイヤー同士が「あれ取って!」から交流が始まる。「お皿を洗ってくれ!」「焦げてしまう鍋をどかせ!」こんな調子の会話が終始繰り広げられる 
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 ビギナーステージを例にとると、オーダーを1つ完成させるのに5つのステップが必要だ。 1.食材を取る 2.切る 3.調理 4.盛り付け 5.出す 料理をお客様の前に出してやっと1つのオーダーが完結し、ポイントが入る。汚れたお皿や皿洗いは料理を出すまで重要ではないが、お皿は数量制限され、皿洗いをしないと、せっかく料理を作っても、それを出すお皿がなくなってしまう。 「自分で自分の首を絞める」ことを防ぐにはプレイヤーはどうすればよいのか 
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 秘訣はキッチンを真ん中で2分割する長テーブルである。ゲームデザイナーは巧妙に次のステップを厨房の両側に設置している。もし全ての段取りを踏もうと思えば、この長テーブルの周りをぐるぐる走らなければならない。ゲームの目的は制限時間の中で、どれぐらいの料理を出せるかだ。この中でプレイヤーは、すべてを一人でこなし、走り回るより、仲間と作業分担したほうが速いことに気づく。 ゲームは後半になるにつれ難しくなり、一人分の幅しかない狭い通路も登場する。 
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 徹底的に作業分担されたキッチン: 
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 このようなステージデザインは、「一匹狼プレイヤー」を絶望させるであろう 最後の隠し味ともいえるディテール だが『オーバークック』の巧みなでデザインはそこだけではない、もし単にステージを分割しただけではプレイヤーもそれに慣れ、「しっかりと役割分担されたプレイで」マンネリ化してしまうであろう。2つのディテールが役割分担によるマンネリ化を解消 まず、異なる操作ステップで費やす時間が違う。食材を持ってくることと料理を出すのは一瞬で終わる。だが、食材を切ろうとすると、プレイヤーはまな板の前で数秒足止めされる。そして調理はもっと時間がかかる、長い料理であれば10数秒かかるのだ。それでも食材を鍋に入れて煮込めば、コンロの前で突っ立ている必要は無く、その間に他の作業ができる。 このようなデザインで、役割分担のような単純作業の効率を極端に下げている。このゲームでよく見るのは、1人がてんやわんやになって、もう一人が暇を持て余している場面だ。ゲームでハイスコアを狙う場合、プレイヤーはすぐに調理の隙間時間を狙って、料理を出したり、仲間に食材を持って行ったりと言った協力プレイが出来るようになる。そのような操作に慣れたかと思った矢先、決まった役割分担だけでは無意味だと思い知らされる。そしてスムーズにプレイするために、仲間と交流しなければならなくなる。 
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 もう一つは先ほど書いた皿洗いだ。料理を出した後汚れたお皿はすぐには戻らないので、皿洗いはステップ外の仕事になる。まして現実でも、皿洗いを好んでする人なんかいないだろう。みんな料理は進んでするのに、流しに食べ終わった食器が溜まってしまうなんてことはよくある話だ。料理が完成した後、いざ盛り付けようとした時に、きれいなお皿が一つもない。せっかくの段取りが崩れてしまう。 こういった細かい設定の上、来客の注文がランダムで料理によって食材の数や種類、調理方法が違うとなれば、プレイヤーは猫の手も借りたいほど大忙しだ。こういった意地悪要素だけではもの足りないとでも思ったのか、本作のデザイナーは更にランダムな要素を盛り込んでいる。 ベルトコンベアを使って食材を運ぶステージ 
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 ランダムでボヤ騒ぎになる厨房 
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 何部屋にも別れている厨房など 
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 こういったランダム要素で、同じステージを繰り返し遊んだプレイヤーもパニックを起こしてしまうだろう。こうしてこのゲームは「別れのキッチン」というあだ名がついてしまったのだ。 『オーバークック』が終始プレイヤーに協力をさせている秘訣、それは従来の役割分担の破壊だ。 進化が止まらない協力システム そしてこの『オーバークック』のアイデアは、ゲーム『Unrailed!』の中でも生かされた。このゲームで、プレイヤーは鉄道工事の作業者に扮し、列車の脱線を防ぐため、自動生成されていくマップ上で迫りくる列車よりも先に線路を引いていくのだ。 
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こんなぶっ飛んだ世界観はさておき、本作が『オーバークック』と似ているのは、同じ能力のキャラを操作し、ランダムに生成される地形に対応していかなければならないところである。列車の安全運転の確保にもステップはある。障害物の岩を取り除き、河があれば橋を架ける、エンジンが熱くなれば水をかけて冷却、その上厄介なのは、工事に必要な木材や石なども現地調達しなければならないところだ。 工程ごとに費やす時間と頻度が異なり、手抜きはできない。全てがしっかりできていなければ、列車が安全運航せず、作業者もスムーズに動けなくなる。 役割分担の破壊以外にも、プレイヤーに様々な情報を与えるアイデアもある 続いて紹介するゲームは『完全爆弾解除マニュアル:Keep Talking and Nobody Explodes』だ。この作品では、プレイヤーは仲間と協力し、時限爆弾を解除しなければならない 一人のプレイヤーは爆弾解除係に扮しで、ゲーム画面を通して爆弾の構造を確認しながら、仲間に現場の爆弾のワイヤー、スイッチそして電子回路の情報を伝える。 
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 そしてもう一名のプレイヤーは印刷物『完全爆弾解除マニュアル』を手に取ってゲームを実際操作している解除係のプレイヤーに解除方法を伝える。 
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二人のプレイヤーは同じモニターを見ていないので、コミュニケーションを通じて、爆弾を解除していかなければならない。 もう一つのデザインテクニックは、「異なる能力を持ったキャラクター」を突き詰めることだ 今年発売された『It Takes Two』はこれまでにリリースされた協力型ゲームの中の最高峰ともいえよう。私はこのゲームについて(『It Takes Two』:妻よ、手軽に主人を捨ててしまうのか)と題した記事を書いたほどだ。『It Takes Two』が最も成功した点は、各ステージでプレイヤーに新しい能力を与えたことだ。それによってステージごとに根本的に違った遊び方ができる。こんな贅沢でクリエイティブなゲームシステムを観たのは任天堂の『スーパーマリオオデッセイ』以来だった。 
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 2016年『オーバークック』は「ケンカ分かれしてもプレイしたい」といったニッチジャンル「協力型ゲーム」を誕生させた。しかし2021年に大手メーカーからリリースされた『It Takes Two』は、このジャンルを主流の座に押し上げたのだった。PSとXBOXで発表されるような大作が、シングルモードやオンラインプレイを徹底している中で、ニンテンドースイッチは本体とテレビの「デュアルモニター」で新しい遊び方を提案してくる。 これまでニッチジャンルであった協力型ゲームに春が訪れようとしている。 私たちに足りないのは良いゲームではなく、一緒に遊んでくれる友達なのかもしれない。 
参考資料 
‘It Takes Two’ - Co-op level design by GMTKwww.youtube.com/watch?v=QbMF1nCiIkQ 
How Overcooked’s Kitchens Force You to Communicate by GMTKwww.youtube.com/watch?v=C3M8BvWcJQY 
Amy Jo Kim - The Coop Revolution: 7 Rules for Collaborative Game Designwww.youtube.com/watch?v=NIayQD4qcYc[b]
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