今回の「トレジャーメーカー」では、知る人ぞ知るのインディーゲーム開発者をピックアップ。
ドット絵やアドベンチャーゲームに造詣が深いユーザーなら、これらの作品をプレイしたことがあるかもしれない。
合同会社ズィーマ。
どれほどマイナーかというと、これまでリリースされた作品の中で最も多いフォロワー数で4万。
しかし、メーカー専用ページを開くと、以下のような評価が目につく。
「こだわりをすごく感じるスタジオ。各キャラが他の作品にも登場することが多い。」
「この種のブラックユーモアがとても好き。」
「ドット絵系インディーゲームの神開発者。」
……
合同会社ズィーマには一部の熱狂的ファン(筆者も含めて)がいる。ズィーマのゲームを1つプレイしたら、絶対に他の作品も遊んでみたくなり、ズィーマのゲームをクリアしたら、絶対に次の作品にも期待してしまう。
これらのゲームプレイ時間は4~5時間程度で、次のような共通点があげられる。
どれも荒廃した終末が舞台であること。そして奇妙で荒唐無稽だが無限のやさしさを包括する世界観が徐々に展開し、常識に反しながらも道理にかなった発見がある。
筆者が個人的に気に入っているのは『ザ・ファイナルタクシー』だ。これはタクシー運転手になり、いろいろな乗客を目的地まで送り届けるゲーム。道中での軽妙なトークや稼いだお金で洗車及びパーツ交換などができる。
主人公は寡黙でクールな運転手と風変りなAIのアントン。そしてさまざまなお客さんが登場する。次々と交わされる彼らの奇妙なトークは非常に面白い。
荒いハンドル操作!お客さんが吐いてしまう!
幽霊のプリンセスに真顔で人間たるもの(?)を教えられたり、ひとりで悦に入り顔を赤くするAIが可愛すぎたりと、開発者のユーモアが各ドット絵にちりばめられている。
お客さんを乗せるほど主人公はベテランドライバーとなり、乗客たちのストーリーが進行していく。例えば、子どもを探す母親と母親を探す子ども、さらにこの母子を離散させた殺人マシーン(すでに改心している)にそれぞれ出会うことで物語が発展する。彼らは終末世界でお互いの事情を理解し、そして思いやる心に芽生える。
ここは終末世界だとは思えないほど陽気だ。しかし車中のまだらな裂け目や奇怪なキャラクターたちが決して去ってなどいない絶望を思い出させる。
合同会社ズィーマの世界では、個性豊かなキャラクターたちがそれぞれ独自の生活を送る。食って飲んで、そして少しブラックユーモアを吐き、終末世界をパーティーにしてしまう。
開発者の飯島勇介氏はこう語る。「とにかく手軽に遊べることを心がけて作っています。私の妻は普段ゲームをしませんが、そんな妻にも遊んでもらえるゲームを作るのが目標です」
社畜から裸一貫で起業した独立系ゲーム開発者
飯島勇介氏は紆余曲折の末に夢を掴んだ独立系ゲーム開発者の典型的な成功例と言える。
飯島氏のゲーム開発は完全な独学である。彼はもともと安定した会社員であった。しかし、ある日突然会社員の仕事では何も成長できないと感じ、1年半悩んだ末に退職、「合同会社ズィーマ」を設立した。
独立した当初はゲームの開発ではなく、ネットショップの運営を行っていた。確かに両者を比べるとネットショップの方が確実性は高い。そこで彼は法人登記、商品仕入れ、在庫配送からSEO対策に至るまでゼロから勉強し始め、さらにプログラマー、コピーライター、デザイナーを含むすべての役割を1人でこなした。
この時期から彼は、日頃の失敗や気づいたことなどをブログに書き込むようになった(あと偶然発見した美味しいお店のことも)。これは9年以上続いている。
彼のネットショップでは「楽しい、面白い、カッコいい」ものにこだわった厳選商品が棚に並ぶ——例えば、空中に浮かぶワインボトルや重量挙げの楊枝箱など、ユニークだが売上の方はまったく保証されていない商品だ。
また、彼はすべての顧客に謎のお手紙「じぃーま通信」を送っていた。
その理由は、自分がいいと思ったアイテムを買ってくれる人が地球上に存在するという事実が嬉しく、その気持ちを共有したかったからだという。
彼は余暇の時間にiOSアプリの開発について1ヶ月半ほど学び、シンプルなゲームアプリ(例えば、飼っていたウサギを題材にしたゲームなど)を作り始めた。
アプリ開発でゲームを選んだきっかけはゲームに対する情熱からだった。彼は「人生で大切なことはゲームから学んだ。(省略)『趣味はテレビゲームです』と堂々と言える世の中にできることを願って」いると自身のブログに綴っている。
合同会社ズィーマの設立から3年後、彼は本当の意味で最初の大きな問題に遭遇した。3歳になる娘が急性白血病になったのだ。
幸いにも幼児の白血病の生存率は大人よりも高い。彼はブログにこう綴っている。
「みなさんお元気ですか。もし元気だったら、その健康っていうやつは地球上で最も貴重で尊いアイテムなので、全力で感謝の気持ちを捧げつつ毎日野菜を300グラム食べてください。」
また、治療のために大量の輸血を受けたことに感謝し、自身も献血に行くことにするといった内容も記している。
生活の中で気づいた些細なことや素晴らしい出来事に感動したことなど、彼のブログにはたくさんの記録が綴られている。
ゲーム開発への道
当時、彼はストーリーや雰囲気を大切にしたゲーム制作に取り掛かっていた。
『FixHer』はその最初の作品で、数枚の白紙とボールペン、Macbookだけで制作された。ジャンルは墓掘りアクションで、味のある簡素な画風が特徴。しかしゲームがシンプルすぎたため、大きな反響は得られなかった。
2017年、彼はフレームワークをCocos2dxからUnityに変更して『TimeMachine』を開発した。そしてこれが1……10数本目のズィーマ作品となった。
リリース直前まではあまり自信がなかったこれはかなり挑戦的な作品である。非常に複雑なストーリーのタイムトラベルアドベンチャーで、複数のエンディングが用意されている。プレイヤーがすべきはタイムマシンを使って荒廃した未来の子孫に物資を送ること。放置系のゲームで、仕送りの内容によって子孫の態度が変化する。
そして、『TimeMachine』は1ヶ月間で1万ダウンロード達成という予想外のヒットとなった。これは彼にとって初の快挙だった。
ダウンロード数がどんどん上がっていくことに興奮した彼は「怖いわ・・・自分の才能が怖いわ・・・!」とブログで驚きを表現した。
さらにファミ通などの大手メディアに取り上げられ、有志による攻略サイトも開設された。これによりダウンロード数はさらに伸びた……
「みなさん、ありがとうございます。」
合同会社ズィーマのゲーム開発事業がようやく軌道に乗り始め、彼も自信を持ったに違いない。これまでに作った10数本のゲームの公開を終了し、Unityによる「ポストアポカリプス」シリーズのゲーム制作に専念するようになった。
『MyLove.』:脳みそヒロインアドベンチャー。脳みそだけ残った妻と生活し、彼女の体の再生を目指す。
ゲームのヒロイン『パラサイトデイズ』:腕から生えたかわいらしい寄生虫(少女)と一緒に生活する。彼女はプレイヤーの体調を心配しながらも、同時にプレイヤーの生命力を吸い取る。
『ポストアポカリプスベーカリー』:荒くれ者の客は、最初はお金も支払わずにパンを奪っていく。しかし、とがめずにパンをあげ続けると、この荒くれ者の心優しい一面が見えてくる。
『リトルボムガール』:プレイヤーは教育係となって、シャイな爆弾少女を健康的に成長させる。少しでも教育を間違うとすぐに投下させられる運命だが、爆弾育成は素晴らしい(?)
……
これらのゲームには相互に小ネタが隠されており、独特の荒廃した終末世界が形成されている。
爆弾少女と『TimeMachine』の子孫が『ポストアポカリプスベーカリー』に登場これは合同会社ズィーマ作品の第3の特徴でもあるが、ゲーム内には特に美しいキャラクターは登場しない(むしろ酷すぎるほどだ)。ストーリー以外の部分は何とも言い難いものがあるが、しかしそんなことを気にするプレイヤーは少ないだろう。ゲーム内のキャラクターに接すれば接するほど、彼らの人間性に愛着がわいてくる。
このユニークでソウルフルなゲームはより多くのプレイヤーからの支持を受けることになる。
『MyLove.』などのアプリが続々とAppStoreのおすすめに上がっている。中国語版アプリのリリースはPujia8Studioが担当し、中国語版の『ポストアポカリプスベーカリー』は中国のAppStoreでフィーチャーされている。
自身のユーモアと日常体験をゲーム内に投影した「終末世界でのほのぼの」。これが粗削りな画面でプレイヤーを感動させる一連の作品を貫くテーマである。
プレイ後、あなたもきっと感じることだろう——些細な喜びの一つ一つが、日常生活からの最高の贈り物であることを。
後記:やっと合同会社ズィーマの作品について執筆できる機会を得た。『ポストアポカリプスベーカリー』をプレイして以来、この開発者はいったいどんな人間なんだろうかと興味を持っていた。今回、開発者の9年間にわたるブログを拝読し、ある程度ではあるが飯島氏の人となりを知ることができた。最後に、拙文であるが、この投稿を通して上記の作品群がより多くのユーザーに広まることを期待する。