『デビルメイクライ』は非常に有名なゲームで、プレイ未経験の方でも、おそらく名前ぐらいは聞いたことがあるのではないだろうか。このシリーズ1作目の誕生秘話を一言で表すと――「やりすぎ」である。
2013年7月号の『大衆軟件』(中国のPC・ゲーム雑誌)に『バイオハザード開発秘話』と題した特別企画が掲載された。そしてこの記事の中で、意外にも『デビルメイクライ』シリーズ誕生の経緯が記されている。
1998年の『バイオハザード2』発売後、本シリーズのプロデューサーである三上真司氏は、続編となる『バイオハザード3』のディレクターに引き続き神谷英樹氏を採用する予定だった。しかしPlayStation(初代)の性能では神谷氏の企画を形にするまでに時間がかかり、新作の完成は少なくとも2000年になる見通しだった。だが、その頃にはPS2が登場し、PS用ソフトでは話題性が半減してしまう。
そこで、当時カプコンの取締役であった岡本吉起氏が『LAST ESCAPE』(もともとスピンオフの企画)を3作目にすることを提案し(PS2が販売される前に発売)、神谷氏の新作は4作目としてPS2で2001年にリリースする予定で進められた。
寄り添う神谷英樹氏現在、神谷氏は歯に衣着せぬ発言で有名な鬼才ゲームデザイナーだが(過激なツイートでツイッターのアカウントをロックされたこともある)、まだ新人だった当時から大胆なアイデアを出していた。
それは、『バイオハザード』シリーズでお馴染みのラジコン操作を廃止し、あらたに直感的なスティック操作を採用し、より多くのアクション要素を追加して、「クール」さを前面に押し出すものだった。
そして三上氏も神谷氏に大きな信頼を寄せており、開発を一任し、彼の大胆な発想に期待していた。
しかし、出来上がったゲームのデモ版を見た時、三上氏はその斬新すぎる内容に愕然とした。
なんと蟷螂拳!西洋風の古城ステージ、生物モンスターやボスのデザインなどは『バイオハザード』シリーズのスタイルを引き継いでいるが、プレイヤーが操作する主人公の機敏さや強さが想像を大きく上回る設定だった。実際にプレイしてみると、主人公がむしろボスではないかと思うほど強く、まったく恐怖を感じなかった。
このような内容は当初の計画方針から完全に逸脱していたが、しかし非常に質の高いゲームであることは間違いなく、このまま「ボツ」にするにはもったいないと三上氏は考えた。そこで「やりすぎ」を押し通すことにし、これを『バイオハザード』シリーズではなく、完全なオリジナルタイトルとして開発を進めることにした。
こうして『バイオハザード3.25』と呼ばれていたゲームは、ひょんなことから『デビルメイクライ』に姿を変えた。
初代『デビルメイクライ』のキャラ、フィールド、ボスなどの設定には『バイオハザード』の痕跡が多く含まれる意外なのはその誕生経緯だけでなく、『デビルメイクライ』の特徴である空中コンボも当初はあるバグからヒントを得ていた。
先に落下した方が負け不思議な巡り合わせで、第4開発部の神谷チームが『バイオハザード』から『デビルメイクライ』開発へと大きく舵を切る中、同時期に第2開発部では忍者とバイオハザードを融合させた——『戦国バイオ』を開発していた。これが最終的に『鬼武者』となった。
金城武の顔が非常に印象的この『バイオハザード』から派生した2つの作品が奇妙に交差する。
『鬼武者』の開発中、主人公が敵を斬るたびに敵が空中に跳び上がり、その状態のまま続けて攻撃できるというバグが発生した。このような空中での連続攻撃は非現実的で、さらに『鬼武者』のゲームテンポにそぐわなかったため、このバグはすぐに修正された。
しかし、これが神谷氏のインスピレーションを刺激し、ダンテの空中コンボが生まれた。これにはニュートンもビックリだろうが、このプレイスタイルは後続作品に引き継がれ発展していった。こうして空中戦の「スタイリッシュアクション」は『デビルメイクライ』の代名詞となった。
初代『デビルメイクライ』は原点にして頂点の作品と言え、200万本以上を売上げる大ヒットを記録し、今でも多くのユーザーがシリーズ最高傑作と評価している。 運命とは常にドラマチックである。神谷氏を支持し、『デビルメイクライ』シリーズ誕生の一翼を担った三上氏だが、彼は今後の『バイオハザード』シリーズ新作を全て任天堂のゲームキューブに独占供給し、PS2版は中止すると決断した。しかし本シリーズの売上が予想を下回るなどし、カプコン上層部との間に確執が深まった。そして上層部は三上氏の第4開発部のプロジェクトを他の開発部に引き継がせることを決定した。
神谷氏は『デビルメイクライ』の続編が第1開発部で開発されることを突然知らされた。この時、彼は北米版『デビルメイクライ』(初代)の開発中だった。この件がのちにカプコンを離れプラチナゲームズに所属することになる大きな原因の1つとなった。
しかし、当時格闘ゲーム開発を得意としていた第1開発部もこの厄介な引き継ぎに手を焼いた。前任のディレクターが離職するなど、新たにディレクターとなった伊津野英昭氏が一連のごたごたの後の開発を受け持ったが、案の定『デビルメイクライ2』は同シリーズ作品の中で最も低い評価を受けた。
本シリーズを窮地に追い込んだ『デビルメイクライ2』『デビルメイクライ』はシリーズごとにプロデューサーが変わる作品となる。
『デビルメイクライ2』の途中から助っ人ディレクターとして開発に参加した伊津野氏が『デビルメイクライ3』の正式なディレクターとなった。そして本作で彼は前回の汚名を返上し、高い評価を獲得した。具体的には空中コンボのスタイリッシュアクション要素が向上し、ストーリー面も前作より進化した。ダンテとバージルとの因縁を描いた物語は完成度が高い。
双子の兄弟2008年に発売された『デビルメイクライ4』では、前作に引き続き伊津野氏がディレクターを担当し、『戦国BASARA』シリーズで有名な小林裕幸氏がプロデューサーを務めた。本作は主人公が変更されたことで、発売前からファンの間で物議を醸した。 2005年のE3会場で発表された『デビルメイクライ4』のデモ映像ではお馴染みのダンテが登場したが、1年後の東京ゲームショウではメイン主人公がネロに変わった。
おっと、画像を間違えた!
新主人公ネロの発表で、これまでのダンテ好きファンはゲームが改悪されないか心配した。しかし本作の発売後、ダンテも操作可能なキャラであることが判明し、またゲームクオリティも満足できる水準に達しており、最終的にMetacriticでユーザースコア8.5を獲得した。
『デビルメイクライ3』の9.1と比べるとスコアはやや低く、また開発スケジュールや開発費の逼迫からか、一部ステージの使い回しが目立ち、それがマイナス評価となっているが、しかしコンソールの高解像度時代の最初のナンバリングタイトルとして、その美麗なグラフィックスで多くのユーザーを魅了したのも確かである。
本作から『デビルメイクライ』シリーズをプレイしたというユーザーも多いしかし『デビルメイクライ』ファンは、シリーズ本編の次回作が発売されるまでに11年の歳月が流れるとは予想もしなかった。
2013年に外注メーカーが開発した外伝作品『ディーエムシー デビルメイクライ』が発売された。本作はメタスコアが8.5、ユーザースコアが7となり、両者の評価にかなりの差が開いた。
その一方で、難易度が下がり、キーボードとマストでの操作(PC版)が最適化されたことで新規ユーザーに好印象を与えた。『デビルメイクライ』のIPを度外視し、単純に1つのアクションゲームとして評価した場合、間違いなく本作は優秀なゲームと言える。しかし、続編ではないパラレルワールドの物語や簡単になった操作性を否定的にとらえる一部のコアユーザーもいた。
『ディーエムシー デビルメイクライ』のダンテの髪型には批判も殺到した『デビルメイクライ』のナンバリングタイトルである『デビルメイクライ5』は2019年になってようやく発売された。プロデューサーを務めた岡部眞輝氏は本作を「平成最後にして、最高峰のアクションゲーム」になると語った。そして「ソウル」シリーズの生みの親・宮崎英高氏の『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』と肩を並べるように当年のTGAゲームアワードの数部門にノミネートされた。
最終的に『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』がGame of the Yearを、『デビルメイクライ5』がBest Action Gameをそれぞれ獲得した。
Game of the Year受賞の『SEKIRO』とBest Action Game受賞の『DMC 5』売上、評価ともにまずまずの結果を残した『デビルメイクライ5』だが、ユーザーを11年間待たせた背景には、『デビルメイクライ』、『ベヨネッタ』、『NINJA GAIDEN』に代表される従来のアクションゲームに苦しい開発事情が存在する。
すでに2017年に発表されている『ベヨネッタ3』だが、いまだにその後の開発状況が一切明らかになっていない。「ベヨネッタ」シリーズを手掛けるゲームディレクターの神谷氏はインタビューを受けた際、「『ベヨネッタ3』について初心に戻り、いままでのことを一度忘れるべきでしょう。だって、そうすれば、本当に何かが出てきたときはうれしいサプライズになるでしょう?」と答えている。
また、『NINJA GAIDEN』のナンバリングタイトルは2012年に発売された『NINJA GAIDEN 3 Razor's Edge』を最後に止まっている。
『デビルメイクライ5』は同シリーズで過去最高の310万本の売上本数を記録した。しかし1000万本の『ゴッド・オブ・ウォー (2018)』や1600万本の『モンスターハンター:ワールド』などの万人向けアクションゲームには遠く及ばない。また同様のコアユーザー向けアクションゲーム『DARK SOULS3』も1000万本、『DARK SOULS』シリーズの累計売上本数にいたっては2700万本を突破している。
『デビルメイクライ』に代表される従来のアクションゲームの難易度は、操作の速度、複雑度、正確度の要求の高さを意味する。必殺技コマンドを覚え、繰り返し技のつながりを練習することで、やっと華麗な連続コンボをきめることができ、巧みな操作を会得するには大変な努力が必要となる。とっつきやすいゲームではあるが、短時間ではゲームスキルの向上は見られない。
これに対して「ソウル」シリーズの難易度は戦略要求の高さを意味する。繰り返し死ぬことでボスの行動パターンを観察し、そこから最も合理的な攻撃方法を模索することが必要で、操作に対する正確度や複雑度の要求はそれほど高くない。そしてこのような戦略プレイはより滑らかな曲線を描いて上達し、ユーザーは常にゲームスキルが向上していく喜びを容易に感じることができる。
これら2種類の難易度設定に優劣はなく、各ユーザーの好みの問題となる。
このため、従来のアクションゲームの不振は、その中心となるユーザー層の変化によるところが大きい。端的に言うと、現在は昔ほどの硬派なゲーマーが少なくなったということである。
しかし忘れてはならない。あの人畜無害に見えるスーパーマリオだって、本質的にはミスが許されない硬派なゲームだ。1HPでステージクリアを目指すゲームプレイは、現在の死にゲーとして有名な「ソウル」シリーズよりも難易度が高いと言えよう。
このゲーム画面を見たことがない人は挙手!『デビルメイクライ』シリーズが非常に優れた作品であることは疑いようがない事実。プロデューサーが次々と交代したり、時代が変化しても、依然として王道アクションゲームのトップに君臨し続けている。しかし商業ゲーム業界は残酷だ。AAAタイトルは数千万から数億ドルの開発費用が必要であり、一部の熱狂的ファンを獲得できても、万人向け作品として成功しなければ、続編のための開発予算を確保することが難しくなる。このため、コストを削減し、美麗なグラフィックスを捨て、熱狂的ファン層によりターゲットを絞った作品にするか、あるいは『ゴッド・オブ・ウォー (2018)』のようにゲームシステムを一新し、これまでのユーザーに新しいプレイ体験を提供するかといった対応が求められる。
ゲームシステムを一新した『ゴッド・オブ・ウォー (2018)』しかし3Dアクションゲームの場合、コストを削減すると、最高級のグラフィックスを提供できず、万人受けしなくなるというジレンマに陥る。
ではゲームシステムの一新が開発者にとっても、ユーザーにとっても正しい選択なのだろうか?おそらくそれは誰にもわからないだろう。
最後に、あれこれ悩んだが、賛否両論必至のテーマを取り上げる。それは……スマホ版である。
『デビルメイクライ』シリーズのような歴史あるコア向けアクションゲームのIPでスマホゲームを開発することは誰が見ても非常に困難な挑戦である。再現度やアクション性などに対する一定数の当該シリーズファンからの批判を受け、その一方でこのコア向けゲームIPでいかにして幅広いユーザー層を取り込むかといった課題にも直面する。しかし、どのようにバランスを調整しても正解は出てこない。どう頑張っても、最後には必ず評価が分かれる。
コアユーザーは『デビルメイクライ』シリーズを完全再現したプレイ方法、買い切り型+ゲームパット操作によるスマホ版『デビルメイクライ5』を期待するだろう。しかし、そのようなスマホゲームでどれほどの売上が望めるだろうか?
本シリーズのこれまでの売上本数をもう一度確認してみよう。『ディーエムシー デビルメイクライ』は240万本、『デビルメイクライ5』は310万本である。ちなみに最も売上本数が多い買い切り型のスマホゲームの1つである『Monument Valley 2』の1年目の売上は350万本である(ただしこれは人民元で10数元という安価なアプリであることに留意)。冷静に考えて、この路線では行き詰まる運命にある。
このため、スマホ版『デビルメイクライ』はライトユーザー向けに開発するしか道はない。それにコンソールを基準にスマホゲームを判断しても、それは不完全に終わる。つまり問題となるのは、ユーザーが『Devil May Cry: Pinnacle of Combat』(スマホ版『デビルメイクライ』)に対して、どのような期待を抱くかである。ライトユーザーからすれば、本作はスマホゲームにしては珍しく非常によく出来たアクションゲームである。アクションの再現度、コンボの爽快感もなかなか悪くないと感じている。
また開発チームはユーザーの意見を真摯に受け止め、テスト初期に批判を受けた課金ポイントや一部プレイ体験の不備などをベータ版で大幅に改善し、誠意ある対応を見せている。
『デビルメイクライ』シリーズのコアユーザーにとって、スマホ版デビルメイクライは多かれ少なかれ期待外れのゲームかもしれない。しかし本作は高い評価を受けており、『デビルメイクライ6』の開発に二の足を踏んでいるであろうカプコンに少しは自信を与えると考えれば、それだけでもスマホ版は十分に価値があると言えよう。
あるサイトではすでに専用ページを作ってDMCの続編を待っている
『Devil May Cry: Pinnacle of Combat』は2021年6月11日より配信開始。興味ある方はTapTapからダウンロードできる。